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残念ながら、他人に伝授できる恋愛テクニックなど持ち合わせちゃいないが、それでも好きな相手の手を握る技なら教えてやれる。
その秘技は、まあ最後まで読んでもらえればわかるさ。
誕生日に無惨に砕け散った我が恋心、バラバラに断片化しても尚、その情熱が醒める事はなく、更に燃え上がったのは大誤算ではあったけれど、その可能性を考えていなかったわけでもなかった。それに、既婚者であったリツコさんが、自分の状況を一切無視し、あっさりと、じゃあお付き合いしましょ、となっても、それもおかしな話だし。
恥ずかしい話だが、それからのオレは、一人でいる時間の大半を泣いて過ごした。ふとした拍子に涙がこぼれ、ときに慟哭を止める事ができなくなっていた。
その後も、時々カヲル君を交えて酒を呑んだり、こちらから無理矢理誘い出して、束の間の喜びを得たりすることもあった。
そうやって顔を合わせてしまうから、いつまでもずるずると気持ちを引きずってしまったわけだが。
梅雨明け間近の水曜日、オレはリツコさんを誘い出した。
水曜は、彼女の定休日、だけどサラリーマンの旦那は出勤している。だから比較的誘いやすい日だった。つき合ってくれる確率は、月に一度あるかないかの微妙な頻度。
その日、リツコさんから聞かされた話は、過去、結婚している彼女に言い寄って来た男は、オレが初めてではないことだった。そしてその男は、あまりにも強烈にアタックしてくるものだから、顔を合わせるのをよしたとい言う。もしオレも、これ以上深いところに踏み込むのなら、二人で会うことはなくなるとも。まあ、オレの気持ちを知っていながら、こういう時間を持つという時点で、十分罪深い行為ではあったのだけれど。
そりゃオレも男さ、肉体的な関係を持ちたいという願望は凄くあったし、旦那と過ごしている彼女を想像し、泣き暮れる事も多々有った。
でも、オレはそんなに深い関係を望んではいけない立場。彼女を傷つけず、幸せを願うのがオレの愛だと自分に言い聞かせ、リツコさんにはこう答えた。
「オレは、一回でも多く、一秒でも長く、あなたと一緒にいられる時間があれば、それだけでいい」
その言葉にどれほどの力があったかは知らないが、少なくともオレの心が真っすぐであることだけは伝わったらしい。
その頃、オレの平日の仕事は、夕方から夜にかけてが主だった。
もうじきさよならを言わなければならない時間が近づいていた。
河川敷の公園の駐車場、ツーシーターの狭い車内で、雲の切れ目に傾く太陽を二人で眺めながら、このささやか且つ至福の時間がもうすぐ終わってしまう事に、オレは激しい焦燥感を抱いていた。
時間が過ぎる事は、もはやどうしようもない。未だかつて、時間を止めることに成功した者など存在しない。もっとも、本当に時間を止められていたならば、当事者以外にはそれを知る術もないが。
オレは焦った。
どうする。
しようと思えばキスぐらいはできそうな隙は、十分にある。
でも、それはしちゃだめだ。
どうする。
彼女を傷つけず、オレが喜べることは何がある。
そして、オレのニュータイプの力が発揮された。
間違いなく、眉間の辺りに光る何かがあった。
「ちょっと、右手見せて」
何だろう、と、怪訝な顔をしながらも、リツコさんは、助手席からシフトノブの上辺りに、手のひらを上にして右手を広げた。
オレはすかさず自分の左手をリツコさんの右手に重ねて、ぎゅっと握りしめた。彼女が握り返してこなかったのは仕方がないが、その行為を容認してくれた事には、心から感謝した。
これが、伝説の秘技が誕生した瞬間である。
つづく
その秘技は、まあ最後まで読んでもらえればわかるさ。
誕生日に無惨に砕け散った我が恋心、バラバラに断片化しても尚、その情熱が醒める事はなく、更に燃え上がったのは大誤算ではあったけれど、その可能性を考えていなかったわけでもなかった。それに、既婚者であったリツコさんが、自分の状況を一切無視し、あっさりと、じゃあお付き合いしましょ、となっても、それもおかしな話だし。
恥ずかしい話だが、それからのオレは、一人でいる時間の大半を泣いて過ごした。ふとした拍子に涙がこぼれ、ときに慟哭を止める事ができなくなっていた。
その後も、時々カヲル君を交えて酒を呑んだり、こちらから無理矢理誘い出して、束の間の喜びを得たりすることもあった。
そうやって顔を合わせてしまうから、いつまでもずるずると気持ちを引きずってしまったわけだが。
梅雨明け間近の水曜日、オレはリツコさんを誘い出した。
水曜は、彼女の定休日、だけどサラリーマンの旦那は出勤している。だから比較的誘いやすい日だった。つき合ってくれる確率は、月に一度あるかないかの微妙な頻度。
その日、リツコさんから聞かされた話は、過去、結婚している彼女に言い寄って来た男は、オレが初めてではないことだった。そしてその男は、あまりにも強烈にアタックしてくるものだから、顔を合わせるのをよしたとい言う。もしオレも、これ以上深いところに踏み込むのなら、二人で会うことはなくなるとも。まあ、オレの気持ちを知っていながら、こういう時間を持つという時点で、十分罪深い行為ではあったのだけれど。
そりゃオレも男さ、肉体的な関係を持ちたいという願望は凄くあったし、旦那と過ごしている彼女を想像し、泣き暮れる事も多々有った。
でも、オレはそんなに深い関係を望んではいけない立場。彼女を傷つけず、幸せを願うのがオレの愛だと自分に言い聞かせ、リツコさんにはこう答えた。
「オレは、一回でも多く、一秒でも長く、あなたと一緒にいられる時間があれば、それだけでいい」
その言葉にどれほどの力があったかは知らないが、少なくともオレの心が真っすぐであることだけは伝わったらしい。
その頃、オレの平日の仕事は、夕方から夜にかけてが主だった。
もうじきさよならを言わなければならない時間が近づいていた。
河川敷の公園の駐車場、ツーシーターの狭い車内で、雲の切れ目に傾く太陽を二人で眺めながら、このささやか且つ至福の時間がもうすぐ終わってしまう事に、オレは激しい焦燥感を抱いていた。
時間が過ぎる事は、もはやどうしようもない。未だかつて、時間を止めることに成功した者など存在しない。もっとも、本当に時間を止められていたならば、当事者以外にはそれを知る術もないが。
オレは焦った。
どうする。
しようと思えばキスぐらいはできそうな隙は、十分にある。
でも、それはしちゃだめだ。
どうする。
彼女を傷つけず、オレが喜べることは何がある。
そして、オレのニュータイプの力が発揮された。
間違いなく、眉間の辺りに光る何かがあった。
「ちょっと、右手見せて」
何だろう、と、怪訝な顔をしながらも、リツコさんは、助手席からシフトノブの上辺りに、手のひらを上にして右手を広げた。
オレはすかさず自分の左手をリツコさんの右手に重ねて、ぎゅっと握りしめた。彼女が握り返してこなかったのは仕方がないが、その行為を容認してくれた事には、心から感謝した。
これが、伝説の秘技が誕生した瞬間である。
つづく
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